あの川の向こうへ 「一、せん川のヌシ」





     一、せん川のヌシ



 ピンと張った凧糸が、水面を動きだした。ゆっくりと円を描き、やがてその円が一点に落ち着くと、トモキの手に、コツコツとした引きと、ブルブルとした振動が伝わってきた。
「きたぞ! ミチ早くアミ取れ」
 ミチは急いで自分の仕掛けを脇に置くと、年季の入った虫取りアミを手に取り、トモキの元に駈けていった。
 この虫取りアミは、トモキたちが『てんま』と呼んでいる駄菓子屋で買ったものだ。買った当初は、ちゃんとした竹の柄の先に、丸い形を留めて純白に輝いていた虫取りアミ。それが二日もしないうちに、竹の柄はどこかに消え、整っていたはずの丸みはどこにもなくなっていた。竹の柄が取れた根元には、トモキが持ってきたガムテープがぐるぐる巻きにされていたし、アミ自体にも、一カ所ふさいだ穴があった。
 たった二日で年季の入ってしまったアミを手に持って、トモキの元へと駈けていたミチは、途中で走るのをやめた。トモキの声が聞こえたからだ。
「あちゃー、まただよ」
 今日三度目の、トモキのあちゃーだ。
「トモキ、またダメだったのかよ」
「うるせー、あいつはヌシだよ。 ヌシなんだから簡単に釣れたらつまらねーじゃんか」 トモキは、あぐらをかきながら悔しそうに川の中をのぞき込んでいた。そこには、真っ赤なザリガニがいた。まるで着色したように赤く、大きなハサミをもった堂々たる姿で、そのアメリカザリガニは、いかにもヌシに相応しい貫禄を持っていた。そのヌシは、トモキから二十円もするイカを奪い取っていた。
「ちきしょー」
 白くふやけたイカを見ながら、トモキは地団駄を踏んだ。
「なあ、そろそろ『てんま』に行こうぜ。
おれ、はらへったよ」
 ミチは、さっさと仕掛けを、厚紙で作った自作の仕掛け巻きに収めながら言った。
「おう、今日はここまでにすっか。 それに、エサのイカも調達しなきゃいけないしな」
 そう言うと、トモキはもう一度ヌシを見ようとしたが、何処へ行ったのか、もう姿は見えなくなっていた。二人は、くすんだ緑色をしたフェンスの下にできた穴から道路へ出ると、自転車にまたがった。
 ミチが乗る自転車は、最近買ってもらった最新式で、二灯ライトの六段式ギアだった。後ろのタイヤの両横には、黒光りする折りたたみ式のカゴがついている。チェーンが奏でる音は、オイルが隅々まで染みわたったような、とても滑らかな良い響きがしていた
「ミチ、いいなあー」
「えー?」
「いや、なんでもないよ」

 ミチとあだ名されたのは青木俊道と言って、町内では少し大きな家に住んでいた。トモキと同じ小学四年生で、柳田小学校のクラスメイトだ。
 ヌシを釣り損ねたトモキこと織田知希は、クラス一背の高い健康的な少年だったが、けしてわんぱく坊主ではなかった。冴えないペンキ屋の父と、肉体労働の母との三人で、おんぼろアパートに住んでいた。
 トモキとミチは妙に馬が合った。家庭環境も、お互いの性格もまったく違ったが、二人は何処へ行くにも一緒だった。
 今日も二人で、せん川のヌシ釣りに朝から奮闘していたのである。けれども今日で何度目の失敗だろう。二人はいつものように失敗し、いつものように『てんま』に向かっている。
 トモキは、前を走るミチのピカピカの自転車を見て、少しだけうらやましかった。トモキの家庭環境では、そんな最新式の自転車など、到底望めない事は肌で感じて分かっていた。だけど、少しだけうらやましかった。
 トモキの乗る自転車は、他とはずいぶん違っていた。もしかしたら、日本に一台だけかもしれないというくらい、他とは違っていた。
 
トモキの父、四郎はペンキ屋をやっているのだが、体が弱く入退院を繰り返していた。そういう状態だから、まともな仕事ができるはずはなかった。ペンキ屋の仕事があればいいのだが、ない時がほとんどだった。そんなとき四郎は、何でもやっていた。あるときは土方のおやじ、またあるときは解体屋、クズ屋……。
 そんな状態だから、トモキの家では何でも再利用するか、必要なものは四郎がどこからか貰ってきた物だった。だから、いまトモキが乗るこの自転車も、四郎がどこからか譲り受けてきた物で、この自転車が、またとても風変わりだった。
 前輪はとても小さく、後輪はその二倍はあろうかという大きさだった。ハンドルは手元に向かって弧を描いていて、いわゆるチョッパーと呼ばれているハンドルで、サドルは細長く、背中の方まで延びていた。
 四郎が貰ってきた時にはサビだらけで、 「だせー、こんなの乗れるかよ」
 と、トモキはふてくされていた。
 翌日、学校から帰ったトモキの目の前には、ペンキで塗られた昨日のサビだらけの自転車があった。全身にペンキを塗られた自転車が、きれいにはなっていたけれど、誰が見ても、塗ったぞと言わんばかりの色で、トモキは恥ずかしかった。
 この自転車に乗る自分の姿を思い描くと、恥ずかしくてたまらない。けれども、投げ捨てれば他に乗る物がなくなるので、トモキは渋々乗ることにした。
 友達に初めてお披露目する時は、嫌でしょうがなかった。あからさまに笑われることはなかったけれど、それがかえってトモキの気恥ずかしさを拭いきれない原因になった。

 それでも、だいぶ恥ずかしくなく乗れるようになってきたなと、『てんま』に向かう途中、ミチのピカピカの自転車を少しだけうらやましく思いながらも感じていた。
「恭子がいるぞ」
 ミチが、『てんま』の店先にいる恭子を見つけ、からかうように叫んだ。
「おーおー、恭子がいるぞー」
「いるぞー」
 ミチは面白がって自転車の上で転げながら、何度も叫んでいる。
「うるさいなー。 ミチ、ほか行こうぜ」
 トモキは、恭子がいるのを知り、本心では『てんま』に行きたかったが、気恥ずかしさと、何だかわからないけど、同じ場所に留まらずに去っていく後姿が、とても格好良く思えたので、ミチを引きずり、別の駄菓子屋に向かった。
「『てんま』の三十円コーラ飲みたかったなあ」
 まだミチは、ぶつぶつ言っている。トモキは、恭子から遠く離れるにつれて、『てんま』に寄らずに引き返して損したという気持ちが、どんどん膨らんできていた。でも、今更戻っても格好悪いしな。ほんと、損した。
「稲荷屋で我慢しろよ」
 トモキは自分に言い聞かせるように言った。
 稲荷屋というのは、学校のそばにある駄菓子屋で、大抵何でも揃っていた。揃ってはいたけど、どれも湿気ていた。
「湿気菓子でがまんしてやるよ。 そのかわり、ふ菓子一本おごれよな」
 わかった、わかったという仕草で、トモキは降参した。

 稲荷屋のふ菓子は、やっぱり湿気ていた。
 明日使うイカも調達し、ポケットに仕舞い込んだ。
「明日は、ぜったいにヌシを釣ってやるぞ」
 恭子を見て逃げてしまった後悔と、不味そうに稲荷屋の湿気菓子を食べているミチを見て、なんとなく勇ましいことを言ってみたくなったので、トモキは宣言した。
「でもよ、あいつは強敵だぞ」
 何度となく失敗を目の当たりにしているミチは、あれは無理だろと言わんばかりだった。
「平気さ、明日は何か秘策を用意していく」
「ひさく?」
 何も思いついてはいなかったが、トモキは今日一晩、寝ずに考えようと思っていた。
「何か良いアイデアでもあるのかよ」
「おう」
 ミチは、疑わしそうな目を向けていたけれど、トモキはとりあえず請合った。
「明日が楽しみだな」
 ミチは笑っていたが、それ以上突っ込んで聞こうとはしなかった。
「じゃあ、そろそろ帰るよ」
「おう、明日な」
 まだ夕闇がおとずれる前だったが、二人は明日に備えて帰ることにした。
「明日、九時に二番橋な」
「了解!」
「じゃあなー」
 トモキは、光に反射して輝く、ミチの自転車のフレームをぼんやり眺めていた。眺めていたら、何故か寂しい気持ちになってきた。明るい太陽の下で友達とあちこち駆け回っているときは、自分は果てしなく自由な気持ちになれる。でも、辺りが暗くなり「また明日」の言葉を交わし、みんなが帰っていく後ろ姿を見ると、その後の現実が重くのしかかってくる。
 自分の帰るべき場所。おんぼろアパート、裕福ではない生活、小奇麗に塗られた自転車。どれもこれもトモキにとっては恥ずかしく、目を背けたい存在だった。けして嫌な場所ではなかったけれど、なんとなく寂しくさせる場所だった。
「おばちゃーん、イカもう一袋ちょうだい」
 トモキは、稲荷屋で明日のヌシ釣り用のエサを、念のためもう一袋買ってから自転車に飛び乗った。

 トモキの住む、おんぼろアパートは富士見荘という名前がついていた。入り口の柱に下がっている苔むした木札には、何十年前に書かれたものか、今ではすっかり薄れ、所々剥げ上がった字で、富士見荘と書いてある。けれども、トモキは一度もこの場所から富士山を見たことがなかった。
 おんぼろアパートには、自転車置き場などという気の利いたものはない。トモキはいつものように、アパートに面した道路上に自転車を止めた。
 夕闇迫るこの時間帯は、たいていの家では明かりが灯り、台所からはコトコトと忙しくたち働く母親の姿が見えるものだが、トモキの家では、四郎の体の調子が良ければ共働きになるので、まだまだトモキ一人の時間が続く。
 家族が揃い、暖炉から漏れる暖色の温かさが辺りの家庭を包むころ、トモキのおんぼろアパートでは、一つの部屋の丸い蛍光灯の、その内側の小さな丸だけが、唯一光を発していた。
 先ほどからトモキは、あぐらをかきながら、目の前に置いた凧糸と、二袋のイカを眺めていた。あのヌシをどうやったら釣り上げられるのか、その一点に神経を集中させていた。ぜったいに夏休み中に釣り上げてやる。
 それだけを考えていた。

 外で自転車が止まる音がした。父の四郎が帰ってきたみたいだった。
「おかえり」
 トモキはぶっきらぼうに父を迎えた。父や母に対して素直になれない、自分自身をさらけ出せない、いつもの自分に苛立っての、ぶっきらぼうさである。
「母さんはまだか?」
「うん」
 四郎は時計を見た。母が帰ってくるまでには、まだ三十分近くあった。
「おまえ、なにやってるんだ」
 トモキは、せん川のヌシをどうやって釣ろうかと、思案していることを手短に話した。
「おまえ、そんなのは初めっからアミ入れてすくえ」
「なにいってんだよ、釣らなきゃ意味ないだろ」
 四郎は、そりゃあそうだと大笑いした。
「風呂は沸いてるか?」
「うん」
 四郎が風呂に入っていったので、トモキはまた一人で考えに没頭できた。アミですくえ……かあ。おやじもろくなこと言わねーなあ。
「まてよ!」
 トモキは名案を思いついた。なるほど、アミですくえね。おやじのその案、いただき。トモキは、ニヤニヤしながら何やら仕掛けを作りはじめた。
 
 やがて、母親も帰ってきて、普通の家庭よりはだいぶ遅い夕飯を済ませると、トモキはそそくさと布団に潜り込んだ。
「トモキ、夏休みの宿題はやってるの」
 母親の声が聞こえた時には、トモキはもうすでに半分夢の中に入っていた。夢の中では、四郎の言葉にヒントを得て、自ら考案して作った仕掛けで、せん川のヌシをすでに釣り上げていた。

 翌日は、朝からかなり暑くなっていた。朝早くからセミの鳴き声がそこかしこから聞こえていたし、ミチとの待ち合わせの、二番橋までの長いまっすぐなアスファルトは、すでに陽炎が揺れていたからだ。
 二番橋には、もうミチがきていた。
「わるいわるい、遅くなった」
「おそいよ!」
 ミチは暑さに耐えかねていた。二番橋は、人と自転車だけが通れる小さな橋で、鉄板で出来ていたから、その上で待っていたミチは、暑さがさらに倍増していたようだった。
「許せ。 その代わり、とっておきの仕掛けを見せてやる」
 ミチは、途端に許す顔になり、興味津々で近づいてきた。トモキは、昨日作った仕掛けをミチに見せた。
「どうだ?」
「いけると思うか?」
 ミチは、じっくりトモキが作ってきた仕掛けを眺め回してから「うん」と頷いた。
「だろー!」
「これならいけるよな。 な」
 ミチの賛同を得て、トモキは俄然、自分が作った仕掛けが本物だと思えてきた。その仕掛けは、つぎはぎだらけではあったが、父四郎の言葉にヒントを得て、トモキが考案自作した。名付けて「すくい釣り」の仕掛けだった。
 仕掛けは簡単である。いつものように凧糸の先に、イカをかた結びでしっかりと二回結んだものを、今回は二本用意した。年季の入った虫取りアミの先だけのものに、使い終わったサランラップの芯を三個母親にもらい、その三個を縦に布テープで繋げた。その先っぽを、少しだけ四角く切り取って、溝を付けた。そうしたのは、凧糸を引っ張るときに滑りやすいようにだ。
 その繋いだサランラップの芯棒に、虫取りアミを直角に針金で固定したのだ。そうすることによって、サランラップの芯の空洞を通した凧糸が、虫取りアミの上を跨いで先に延びていて、その先にイカが結ばれているというわけだ。
 これでイカのついた凧糸を引っ張れば、ヌシは自然と虫取りアミの上まで、おびき出されるというわけだ。虫取りアミは、予め川の中に入っているわけだから、ヌシがイカを掴んでも、水の上まで引っ張り上げる必要がないのだ。
 あとは、サランラップの芯棒を持ち上げればアミも上がってくる。なんてすばらしい案だろう。二人は興奮し、いてもたってもいられなくなった。
「はやくいこうぜ」
 二人は陽炎の中、ヌシの元に自転車を走らせた。

 そこには三台の自転車が止まっていた。
 くすんだ緑色をしたフェンスの穴が、なんだか他人の家の門のようで、トモキもミチも自転車を降りて近づくことができなかった。
 どれくらいそこでじっとしていただろう。やがて、フェンスの奥の方から話し声が聞こえてきて、三人の六年生が出てきた。三人は、二人に気づくと高々とアメリカンザリガニを掲げて見せた。
 それは、ヌシだった。

 どのくらい、くすんだ緑色のフェンスの穴を見ていただろう。自動車の騒音、セミの声、何一つ耳の奥へは聞こえてこなかった。
「どんな仕掛けで釣ったんだろう。 おまえの仕掛けでも、ぜったい釣れてたよな」
 ミチは、ため息とともに言った。でもトモキには、そんなことはどうでもよかった。もう、このくすんだ緑色のフェンスの穴の向こうには、ヌシはいないんだ。そう思うと、なんだか急に、この場所が色あせて見えてきて、トモキは自作の仕掛けを、そばのゴミ捨て場に捨てた。




つづく




写月



今日から五月。
雨月や写月など、多くの異名を持つ五月。
生憎の雨での始まりです。


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上弦の月が、八十八夜に向けて一瞬顔を覗かせた昨夜。
それを見やりながらの夜の散歩でした。

でもこんなにすぐに雨になるとはね。
予報では明日から3日間の降り続く雨だったはず。

早朝散歩とカフェ・ド・ピーゾの朝食時間は何とかセーフ。
その後も何とか霧雨に近い状態を保っていたので、通常通りの散歩へ。

バローも欠伸をするほどの余裕です。


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いや.....................もしかして緊張の欠伸??


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小さいな森はけっこうぬかるんでいたので、真っ直ぐ舗装路を。

そして早々に大きい方の森へ。

姫の姿は見えず、呼ぶ声ももちろん聞こえてはこない。
家族と一緒に出掛けたのかもしれない。


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出掛けては.................................いませんでした。
疲れ切った様子で、小屋の中で寝ていました。


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ちょうど出てきた家の人に聞いたところ、
昨日は二家族が遊びに来たので何回も散歩に行った。とのこと。
ニュアンス的には、頑張ってるでしょ!と言っている様に感じた。

それでも起きてこない姫。
疲れていたら見合わせようと思い聞くと、
そんな事はない、全然大丈夫.................とのご回答でした。


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再び雨が降り出した。
さっきよりも激しく。


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木陰で強めの雨を避けつつ、森を進む。
もちろん、こんな日の森にはほとんど人がいない。
動くものといったら、僕らと鳥たちぐらい。


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静かで暗い森の中を、バローも一歩一歩歩いている。
雨脚は徐々に強くなり、もうすぐ本降りを迎えそう。


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少し早足で進もうか。
リンクも濡れずに帰りたいでしょ。


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イヤ!!


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あぁーーーーー、でも誰も、動かない。
リンクなどは、考えてからわざわざ一番遠くまで食べに行ってるし。

もう今日は濡れて帰ろうか。
うん、それがいいね。


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姫は、元気ないですね。
それはそうだよね。
いくら嬉しくたって、普段とは違う一日は疲れるよ。


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姫は何度も吐いていた。
それは草を食む、普段の吐きとは違っていた。

疲れたねぇ。

それにこの後は雨。
明日は激しい雨。
明後日も雨。
明々後日も、雨。


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祭りの後を知らないんだろうか。
賑わいは消え、
浴衣姿はどれも帰りの下駄の音。
出店は次々と灯を落とし、
テキヤの顔からは笑顔が消えかかっている。

あの寂しさ。

あれほど楽しくてしょうがなかった、さっき。
そこに僕もいた。
でもそれは、さっきまで。
いま僕は、全てを見送っている。

この寂しさ。

寂しさは侘しさと疲れを呼び覚ます。
途方もない疲れ。
それは取り残されたことへの。
それはまた来年という言葉の。
一言に潜む無限の日々の積み重ね。

疲れたね。

今宵の後の寂しさを、知っているんだろうか。





ますます雨は強くなっていく。


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だから2組は森へは行かず、緑道散歩に一人ずつ。

カイ、森へは行けなくなっちゃったけど緑道を歩こう。


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雨脚はどんどん強くなる。

念のためテトはポンチョ着用。


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そして最後はノエル。

最後には福がある。
ノエルの番になっていきなり雨が止みました。
ポンチョを着なくて済んで、ホッとするノエル。

でも止んだのはこの時だけ。
その後はどんどん雨脚が強くなり、午後には本降りになりました。
昨晩の月が懐かしい。




半月が霞みの空に滲む夜
漆黒は天上から深蒼へと移りだす
雲は白く綿々と
やがてはそびえる山々と

西に見えるは金星の灯
母の瞬きに違いない
いつしか半月は船となり
霞の空を航路する

立ちはだかるは雲の山
そびえる白さは畏怖から恐怖へ
霞の空は波高く
金星の灯は揺れ動く

その時星は現れた
月を導く灯台守
火星の灯は半月と共に
霞の空を航路する

いざ行こう、上弦の月よ
畏怖と恐怖の山を超え
霞の晴れ渡るその先まで
きっと夜明けが待っている




それでは、また明日!





今日の記事[2012/5/1]



□ 今日の記事 □


● 写月

● あの川の向こうへ 「一、せん川のヌシ」 ★連載中★


以上の2記事になります。



あの川の向こうへ 「二、恭子の告白」

   




      二、恭子の告白



 トモキのクラスメイトに河合恭子という子がいた。トモキが三年生の時に、柳田小学校に転校してきた女の子だ。ショートカットで、可愛い顔をした女の子で、トモキはいっぺんで好きになった。
 三年生の頃は違うクラスだったが、トモキが学校から帰る道を、いつものように歩いていると、前を女の子が歩いていた。トモキの方が歩幅が大きいから、すぐに追いついて、追い越した。追い越すときにチラっと横目でその女の子を見た。全く見たこともない女の子だった。
 次の日、学校に行くとミチが飛んできて、転校生がきたんだと教えてくれた。早速二人で見に行った。その子が、昨日見た女の子で、恭子だった。

 四年生になって、恭子と同じクラスになった。席は遠く離れていたけど、恭子の方が前に座っていたので、トモキは毎日、恭子の後ろ姿を見ることができた。 
 恭子は、ものすごく可愛かった。冬に、ほっぺたを赤らめ、両手を口に当て、ふーふーする姿なんかを見ると、トモキはドキドキして頭がカッと熱くり、自分の顔が真っ赤になっていないかと心配になるほどだった。

トモキが恭子と初めて言葉を交わしたのは、夏休み前の最後の授業の日だった。ミチとヌシ釣りに没頭する少し前のことだ。
 夏休み前の最後の授業だというのに、恭子は風邪をひいて学校を休んだ。恭子の座っているはずの席が、ぽつんと空いているのを見ると、トモキの心もどんどん沈んでいった。
「つまんねーな」
 ミチがその声を聞きつけて寄ってきた。
「何がつまらないんだよ。 恭子が休んでるからか」
 図星だった。見事に言い当てられた。なんだか自分の心が、全て見透かされているようで、たじろいだけど、しゃくに障ったので「うるせー」とだけ答えた。ミチは、そんな事はお見通しだと言わんばかりに、ニヤニヤしてトモキを見ていた。

 終業式も終わり、帰り支度をしていると、山田がトモキを呼んだ。山田こと山田治先生は、トモキのクラス担任だ。トモキ達は、仲間内の間でだけ、山田と呼び捨てに呼んでいた。
 その山田が、何かを手にトモキを呼んでいる。トモキは、どんな悪いことをして見つかったのかと、頭をフル回転させながら、ゆっくりと山田の元に歩いていった。
「織田は河合と家が近かったよな」
 恭子の名が出たことに、トモキは一瞬ドキッとした。それと同時に、どうやら怒られるわけではないらしいことに、ホッとした。
「えー、知らないよそんなこと」
 トモキは本当に知らなかったので、そう答えた。
「そうかあ」
「そうだよ。 だいたい何で女子の家なんか知ってなきゃいけないんだよ」
 恭子の家が何処にあるのか、おおいに興味はあったが、なんだかそれはとっても軟弱に思えたので、トモキは強がった。
「織田の家の先に、何て言ったかなー、ラーメン屋があったろう」
「一番軒かあ?」
「そうそう」
「先生、あそこは不味いぞ。 ちっとも一番じゃないぞ」

 一番軒は、とにかく美味しくなかった。どのラーメンも、何だかどぶ川の臭いがするのだ。
 一番軒は火事になったことがある。トモキは偶然傍を通りかかり、急いで消防車を呼び、店の中の物を運び出すのを手伝って、表彰されたことがある。
 幸い、ボヤで済んで、店の被害はそれほどでもなかった。店の店主はお礼にと、トモキの家にラーメンをはじめ、色々な物を持ってきてくれた。
 だからトモキは一番軒のラーメンをたくさん食べた。でも、どれも不味かった。一緒に食べた父も母も、無言だった。

「たしかにな……」
 山田も一人頷いていた。
「おい、そういうことじゃないだろ! 一生懸命、商売してるんだから不味いなんて言っちゃダメだぞ」
 自分も頷いていたくせに。急に先生口調になって、もっともらしい事を言いだした。そんな山田が可笑しくて、トモキは笑い出した。
「何を笑ってるんだ!」
「だって……せんせいが」
 山田の口元も、心なしか笑っていた。
「まあーいい。 河合の家だがな、一番軒の先に新しいマンションがあるだろう。」
「うん」
「そこだ。 そこの三階だったかな」
 トモキは頭の中で、そのマンションを想像していた。その前に立っている自分の姿と共に。
「おい。聞いてるのか」
 トモキは我に返った。
「なに、なに?」
「ヘンなやつだな、ちゃんと聞いてろよ。
河合が熱を出して休んだだろ。 だから織田が今日の『お知らせ』を持っていってやってくれないか」
 トモキは、ドキドキしていた。心臓が今まで経験したこともないくらいに、バックンバックン動き出した。あまりに大きな音なので、山田に聞こえてしまうんじゃないかと思うほどだった。
「どうだ? 引き受けてくれるか?」
 トモキは頷きたかったが、山田にまで気持ちを悟られるのが嫌だったので、面倒だという体で返事をしないでいた。
「そうか、嫌か。 ならしょうがないな」
「えっ、いいよ。行ってやるよ」
 トモキは思わず言ってしまった。
 山田はゲラゲラ笑いだした。
「なんだよー」
「織田、おまえ河合のことが好きなんだろ」
 げっ。
 すべてお見通しだった。

 トモキは今、恭子の住んでいるマンションの前にいた。ペンキで塗りたての自転車にまたがって、恭子がいるであろう場所を見つめていた。隣にはミチが、涼しい顔で立っていた。一人では心細かったので、ミチについてきてもらっていた。
「ここからは、一人で行けよな」
「わかってるよ」
 そう言いながら、トモキはなかなかその場から踏み出せなかった。
「なにやってんだよ!」
 人ごとだと思って、ミチは半分面白がりだしている。
「いかないのかよー」
「分かってるよ。 いくよ」
「……でも、いないかもな」
「何言ってんだよ。 風邪で休んでて、家にいないわけねーだろ」
 ミチに冷静な突っ込みをされて、トモキは幾分か気持ちが落ち着いてきた。
「よし、いってくる!」
「おー、がんばれ、がんばれ」
 トモキは、意を決して自転車を降りた。

 マンションの入り口の扉を開け、中に入った。山田に三〇二号室と聞いてはいたが、一応ポストを確かめた。三〇二と書かれた銀色のポストには、河合と表札が出ていた。
 その文字を見た途端、トモキのドキドキは再沸騰した。逃げ出したい気持ちをぐっと抑えて、奥に見えるエレベーターに近付いていった。トモキは中に入り、三階の丸いボタンを押した。その指が小刻みに震えている。扉が重くゆっくりと閉まると、自分のいる空間の狭さに、トモキのドキドキは軽い恐怖心も帯びてきた。
 そんなことはお構いなしに、エレベーターは重力に逆らってトモキを恭子へと近づけていった。エレベーターが開き、そよ風が吹き込んでくると、トモキは幾分かは自分を取り戻せた。三〇二号室を目指してトモキは歩き出した。
 角を曲がるところに窓があり、下を覗いてみると、自分の自転車が見えた。マンションの入り口では、ミチがこっちを見上げてニヤニヤ笑っていて、トモキに気づくと、ニヤついた顔をさらにニヤつかせて、大げさに手を振ってみせた。トモキはそれに応える余裕もなく、三〇二号室を探して再び歩きだした。

 三〇二号室は、奥から二つ目のドアだった。真新しい青に塗られたドアの横に、同じく真新しい白い表札があって、そこが恭子の住む家に間違いないことを示す、河合という苗字が書いてあった。
 玄関のドアの横に黄色い傘があった。持ち手のところに、黒い油性マジックで書かれた文字が光っていた。かわいきょうこという文字が。光って見えたのは、トモキだけだったかもしれないが。その途端に、青い扉と黒い油性マジックで書かれた文字がトモキに迫ってきた。もう、トモキはどうしたらいいのか、分からなくなっていた。

その後のことは、ハッキリとは覚えていない。真っ白い世界の中に居たような気分だ。ミチが待っている階下に降りて、自転車に乗ると、とにかく遠くまでペダルを漕いだ。ミチが急いで追いついてきて、何かと隣でわめいていたが、トモキには遠くで聞こえる車の騒音と同じように、意味のない音に聞こえていた。
 やがて神社の跡地についた。ここは、普段トモキたちが缶蹴りや、ドロケーをして遊ぶ場所だ。表側に鳥居があって、階段を上っていくと神社の境内にたどり着く。
 境内から右手に見た所に、薄暗い細道があり、小さな鳥居が幾十にも続いている。まるで、昔にタイムスリップでもしたかのような風情を醸し出していた。
 その裏手の方にあたる場所が、昔境内があった跡地だ。今では、コンクリートの枠組みだけが、境内の間取りを教えてくれていた。トモキは、その枠組みを歩いて奥へと渡っていった。
「おい、待てよ」
 ミチも慌てて後を渡ってきた。
「どうだったよ。 恭子いたか?」
 トモキは枠組みから飛び降りて、土手の上に腰を下ろした。ミチも並んで隣に座った。
「で、どうだったんだよ」
 トモキは、呼吸を整えながら思い出していた。思い出せたのは、初めて見る恭子の母親の顔だけだった。恭子にとてもよく似ていて、若くて清楚で、美人だった。
 その母親が、トモキを見て何かしゃべっているのだが、何を言っているのか、トモキには全く聞こえなかった。
「なー、教えろよ」
 ミチがじれきっていた。
「うーん、恭子いなかったよ」
「はあ?」
「よく分からないけど、いなかったんだよ」
「いないって、風邪で学校休んだんだから、いないわけないだろ」
 ミチは、怪訝な顔をして言った。
「だから、よくわからねーよ。 でも、山田に言われた『お知らせ』は持っていったんだから……いいよ」
 それきり二人は、何もしゃべらなかった。土手に寝そべって、ただ空を眺めていた。明日から夏休み。空には、真夏の入道雲の子供達が顔を出し始めていた。

 夕方、ミチと別れてからトモキは、帰る気になれず、何処へ行くともなしに自転車を走らせていた。一度、自分の家の前を通ったが、電気は点いておらず、寒々しかった。
 一番軒の前を通り過ぎ、昼間来た恭子が住んでいるマンションの前まで来てしまっていた。何で来てしまったのか、自分でもよく分からなかったが、昼間のようなドキドキはかなり薄れていた。そこからは恭子のいる部屋は見えなかったが、しばらくそこにいると、恭子と同じ時間を共有しているようで、トモキは嬉しかった。
 しばらくして、帰ろうと自転車のペダルを踏んだ時、前の坂道をこちらに向かって歩いてくる恭子が見えた。トモキは、どうしたらいいのか分からず、逃げたい気持ちでいっぱいになった。
「あっ」
 恭子の潤んだ瞳がトモキを捕らえた。こっちに向かって歩いてくる恭子は、時々立ち止まっては咳をしていた。まだ風邪は治っていないようだった。
「いま、お薬買いに行ってたところなんだ。 おだくん、今日はありがとう」
 恭子が自分の名前を知っていたことに、トモキは嬉しくなった。
「ごめんね。 来てくれた時には、お薬飲んで眠っちゃってたの」
「うん」
「明日から夏休みだね」
「うん」
「うんばっかり」
「……うん」
 恭子は白い歯を見せて笑った。ものすごく眩しかった。
「おだくんと話すのって、初めてだよね」
「そうだっけ」
 街路灯に電灯が灯り、電信柱の真下で話しているトモキと恭子を照らした。
「おだくんて、変わった自転車乗ってるね」
 トモキは、ものすごく恥ずかしくなった。不格好でサビだらけだった自転車。父四郎がペンキで塗った自転車。恭子にだけは、見られたくなかった。
「その自転車、カッコいいね」
「え?」
「なんかすごくカッコいい。 それにおだくんに、とってもよく似合ってるよ」
 恭子が本気で言っているのか分からなかったけれど、トモキはすごく嬉しかった。
「ねえ、おだくんは覚えていないだろうけど……わたし、ずっとずっと前から、おだくんのこと知ってたよ」
「え? いつからだよ」
 トモキはどぎまぎした。
「わたしが転校してきた時だよ」
「いつだよ」
「わたしがはじめて学校に行った日。 一人で帰っている時に、大股で横を通っていった男子がいたんだよ」
 トモキの心臓は飛び出してしまいそうだった。自分が初めて恭子を見た時、恭子も自分に気づいていたんだ。
「それが、おだくんだったんだよ。 覚えてないでしょー」
 もちろん、覚えていた。だけど口から出たのは、違う言葉だった。
「そうだったっけ」
「うん」
 少しの沈黙が流れた。
「わたし、そろそろ帰らなきゃ。 お母さんが心配しちゃうから」
「あっ、うん」
「おだくんて、ほんと、うん、ばっかり」
 恭子は優しい笑顔を残して、駈けだしていった。マンションの入り口まで行って振り返ると、恭子は言った。確かに言ったんだ。
「おだくんの自転車ってカッコいいよ。 ……おだくんも、カッコいいよ」
 恭子は、小さく手を振ると、マンションの中に消えていった。トモキは、いつまでもその場所を見つめていた。




つづく




雨のまま



20120502.jpg


降り続く雨。
窓を開けると時折中まで吹き込んでくる。
北も、南も、東側の窓からも。
風が舞っている。


20120502-2.jpg


そんな中、今日はツバメが迎えてくれた。
散歩に出るとすぐ、ピーゾたちに混じってすぐ上の電線。
そこにじゃれ合うように、ゆっくり四羽がとまる。

ピーゾたちに何か聞いたのかもしれない。
初めまして、ツバメさん!


20120502-3.jpg


ツバメたちに挨拶をし、散歩に向かう。

雨の止み間を待っての散歩でしたが、やっぱりすぐに降り出してきた。
予報では激しい雨が夜まで続く見込み。
ちょっと考えましたが、
昨日の姫の疲れもあるので今日の森はパスしました。


20120502-4.jpg


雨降りの中、ゆっくり休めるかどうかは分からないけど、
今日は一日姫に休んでもらい、うちのワンズは長めに緑道散歩をすることに。


20120502-5.jpg


雨は強弱こそ変えるものの、止みそうもない。
風も渦を巻き纏わりつく。
陽気としては過ごしやすいんですけどね。


20120502-6.jpg


雨に濡れたラベンダーが、香りを拡げている。
富良野のように、一面紫の絨毯にはなれないけれど、
その一輪、その一葉、花びら一枚の紫が地平に広がる。

何より、寄り添うその姿が素敵だった。


20120502-7.jpg


緑道を抜け、緑道を抜け、そしてまた次の緑道を歩く。
肌に落ちる雨を感じ、濡れて重さを増したシャツが肩に掛かる。
風は前髪や襟足を弄び、急降下してバローの耳をくすぐる。

そしてまた一つ、緑道を抜けた。


20120502-8.jpg


2組の順番になる頃には、雨も風も少し強さを増す。
それでも元気なじーちゃんズは、一瞬たりともじっとしてはいない。

早く行こうよ!
はいよ、でもちょっと待ってね。
この藤の花を眺めてから。


20120502-11.jpg


子供の頃から、何故かは分からないけど藤の花が好きだった。
その色合いなのか、形なのか。

垂れ下がり揺れるその姿に、儚さを感じたのかもしれない。


20120502-10.jpg


お待たせ。
さぁ、行こう!


20120502-9.jpg


森で会う保護ボラの人に、先日、老犬の話を聞いた。
保健所にいる15才の老犬の事を。

命の期限を決められた多くの命。
その中にいた15才の命。

誰かが受け止め支えさえすれば。
たったそれだけでいいのに。
人は人であるということで、がんじがらめになる。
自ら作った貨幣に生き、死んでいく。


20120502-12.jpg


15年も生き、捨てられる命。
15年も生き、掬えない命。
受け皿は何もない。
嘆きながら見て見ぬ振り。


20120502-13.jpg


ピーゾが纏わりつくように飛んでいる。
自分の場所を知らせるように、鳴いている。


20120502-14.jpg


嘘偽りない姿。
純粋な声。

貨幣に縛られ紙幣を欲す。
人とは.................自分は、いったい何なんだろう。

やっと重い腰を上げ、昨日保健所へ電話した。
言われるがままに、たらい回され電話した。
確かなことは分からない。
でも恐らく、もう処分されているでしょう、とのことだった。

15年も生きた命を捨てる人。
そしてそれを繋げない自分。
きっと罪は同じなんだと思う。




ソレデモボクハコソサレル


コンクリートに鉄の檻
そこでボクは殺される

薬品と恐怖臭に包まれて
やがてボクは殺される

十五才の老犬だから、ソレデモボクハコロサレル

あゝ、何てことだろう
裏切りにもほどがある
あんなに信じていたのに
こんなに愛しているのに

信じていたからさ、
愛していたからさ、
ソレデモボクハコロサレル


枯葉散り、雪が舞い
花開き、陽炎が踊る
そんな季節を廻って来た
今年でそれも十五回

巡り過ぎたからさ、
重くなってきたからさ、
ソレデモボクハコロサレル


空すら見えない暗い場所
そこでボクは殺される

鳴き声と嗚咽に包まれて
やがてボクは殺される

十五才の老犬だから、ソレデモボクハコロサレル

ずっと仔犬でいたかった
ずっと抱かれていたかった
誰もが笑ってくれたのに
頬を寄せてくれたのに

可愛く無くなったからさ、
老犬になったからさ、
ソレデモボクハコロサレル


冷たさは感じていた
侮蔑も承知していた
でもボクはそこに居た
でもボクは、そこに居たかった

だからさ、
そうだよ、だからに決まってる
お荷物なんだよ
もう流行らないんだよ
老いぼれた、たかが一個の命なんて
ソレデモボクハコロサレル


多くの中にボクは埋もれる
ソレデモボクハコロサレル
生きたいと、願ったから
ソレデモボクハコロサレル
そうさ、
ソレデモボクハコロサレタ
生きていたいと、願ったのに







今日の記事[2012/5/2]



□ 今日の記事 □


● 雨のまま

● あの川の向こうへ 「二、恭子の告白」  ★連載中★


以上の2記事になります。




あの川の向こうへ 「三、鳥居の奥」





      三、鳥居の奥



 境内の右手には、幾十もの小さな鳥居が続いている。大人の背丈ほどの小さな鳥居がいくつも。そこは昼間でも薄暗く、いつも湿った石畳の細道が、何処までも続いているようだった。
 その細道を進んでいくと、迷路のように道が分かれ、至る所に小さなキツネが鎮座していた。風が吹くと周り中の木々がざわめいて、ただでさえ子供の目には薄気味悪い場所が、より一層不気味さを増す場所になった。

 そんな薄気味悪い場所の、ちょうど裏手にある境内跡地の土手に、トモキとミチはいた。相変わらず二人揃って。
 二人とも無気力感に満たされていた。それも当然だった。つい昨日、せん川のヌシを、三人の六年生に先を越されて釣られてしまったばかりだったのだから。
「あー、あちいなー」
「あー、ひまだなー」
「こういうのを無気力って言うんだろうな」
「おまえ、難しい言葉知ってるな」
「……」
「はあー」
 今日の二人は、終始この調子だった。
「なんかないかなー」
「トモキの家にいこうぜ」
「家は汚ねーから」
「汚くたっていいのに」
 トモキは、まだ一度も友達を自分の家に呼んだ事がなかった。
 おんぼろアパートだったから。
 狭かったし、みんなと違って自分の部屋と呼べるようなものが、トモキにはなかったから、恥ずかしくて、とても友達を呼ぶなどできなかった。
 だから今も、ミチの提案に対して、さり気なくかわすことしかできなかった。
「じゃー、『てんま』にいくか」
「うーん、イマイチ」
「学校行っても、しょうがないしなー」
「山田でもいれば、からかえるけどな」
 二人は山田の顔を思い出し、ゲラゲラ笑った。

「じゃあ、肝試し行くか!」
 ここいらの子供達の間で、肝試しと言えば、神社の境内の右手にある、石畳の細道と決まっていた。
 トモキは気が進まなかったが、他にやることもないので、二人で行ってみることにした。境内の跡地でドロケーなどをした時に、追われて走って逃げ込んだことはあったが、その時でも、薄気味悪くて、追う方も、追われる方も、そのことは忘れて、ただただ早く走り抜ける事だけに全神経を集中して、全速力で走ったくらいの、経験しかなかった。その不気味な場所に、これから二人で行こうというのだ。
 二人は土手の脇にある、境内へと続く坂道を登り、肝試しの入り口に立った。
「おい、やっぱり暗いな」
 ミチが、上ずった声で言った。
「行くか!」
 トモキも上ずった声で、自分たちを勢いづけるように言った。
 二人は並んで一歩を踏み出した。真夏だというのに、そこにはヒヤっとする寒さがあった。一歩踏み込んだ途端、別世界に入ってしまったかのような錯覚に陥る場所。トモキは後ろを振り返った。
「なんか、寒いよな」
 ミチは身震いしながらキョロキョロと辺りを見渡し、落ち着かない。
「ああ、寒いな」
 トモキは今歩いてきた石畳の先にある、一番初めの小さな鳥居を見ていた。何だかそこが小さく閉じていき、入り口が塞がっていくような気がして、慌てて前に向き直った。前にも、その先にも、無数に小さな鳥居は続いていて、石畳は細くじめじめしていた。
「やっぱ、怖いな」
 ミチは早くも、自分が肝試しを提案したことを悔いていた。半袖シャツと半ズボンから出た肌に、鳥肌が立っている。
 トモキは無言で歩いた。
 ゆっくりと。

 やがて右側に小さな小道が現れ、その先に、小さな祠があった。今までも、走り回っていた場所ではあったけれど、こんなにじっくりと、ゆっくりとした目で見たことはなかった。 小さな祠は木でできていて、その中には白くて、何だか妙に神秘的な狐が二匹座っていた。木の祠を守るように、左右に鎮座している姿は、ものすごく堂々としたものだった。
 いったい、何時からそこにいるのだろう……トモキはそう聞きたくなった。ミチはものすごく不気味がっていたけれど、トモキには不気味なものには見えなかった。その理由は分からなかったが、トモキにはそう感じられた。その後は、怖さが一切なくなった。
 ミチは、もう降参だと嫌がっていたが、トモキは引きずって全部の祠を回った。石畳は相変わらずじめじめしていたし、辺りは薄暗かったけれど、トモキにはもう何でもなかった。
 祠は全部で二十あった。みなそれぞれ形や大きさが違っていて、中で鎮座している狐の形や、大きさも、みなそれぞれだった。
 トモキがもっとも気に入ったのは、二十の中で唯一、石で出来た、最も大きな祠だった。その石の祠の横に、とても大きな石碑があり、何かの文字が刻まれている。石の祠の中には、白い狐が五つ座っていた。一番奥に、一際大きな白い狐が、威風堂々と居る様は、威厳に満ちていた。
「なんか狐の置物が不気味だな」
 ミチは相変わらず怖がっていた。
「不気味じゃないぞ。 なんかカッコよくないか?」
「おまえ、どうかしてるぞ」
「そうかなあ」
 ミチは怪訝な顔をしていた。
「おい、もういい加減いこうぜ」
 ミチは痺れを切らし、トモキを引っ張って表へと出た。
「はあー」
 ミチは、まるで今まで息を止めていたかのように、一気に口から息を吐き出した。
「たすかったー」
 ミチは疲れた顔をしている。トモキは、なんだか妙な気分に包まれていた。
 
 外に出ると、一気に夏の光と暑さが押し寄せてきた。セミの鳴く声と、じりじりと肌が焼けるほどの日差しに、やっぱり夏なんだと思った。でも、今まで居たあの場所は薄暗く、寒いほどに涼しかった。
「トモキには負けたよ。 おまえよく怖くなかったな。 『てんま』に行こうぜ。 負けたから俺がおごるよ」
 二人は、境内の跡地に向かって、坂道を降りていった。





つづく





降り続く雨とバローの頬の傷



相変わらず降っている。
昨日も、一昨日も.........雨は驟雨(しゅうう)にならず、今日も葉を叩く。

それほど雨は少なかったのだろうか。
卯月の驟雨は皐月花を咲かせると言うけれど、
五月に入り、天は慌てて雨を降らせている。
どうやら皐月に花を咲かせるに、恵みの雨が足りないらしい。

僅か十数センチの大きさで
遥々やって来たツバメたちには申し訳ないが、
今しばらく軒下で雨宿りといこう。


20120503.jpg


散歩の方は、本降りが続いているので希望するワンのみ!
さすがにこの降りではバローはパスなので、
ナインも無理かなと思いましたが、何とかハーネスを付けてくれました。

昨日同様、緑道のみ1枚ずつの散歩です。


20120503-2.jpg


バローはちょっと憂鬱そう。
でも以前なら、こんなものではありませんでした。
今日も玄関先までは来たんですけどね。
やっぱりやめる!と踵を返しました。


20120503-3.jpg


続いてはリンク......。
ナインの時よりも雨脚が更に強くなってきたのでポンチョ着用。
今日はブルブルしっぱなし。


20120503-4.jpg


お次は、テト。
今日も元気ですよぉ~、我が家のじーちゃんズは。

降り続く雨に香りが持っていかれる中、
鼻先に全てを集中しているテトには、皐月花の香りがしているのかも。


20120503-5.jpg


そして、カイ。
おっとっと......................黒くて何も見えん!

カイの時には雨脚が更に強く。
さすがのカイも、躊躇してます。

カイ、大丈夫だよ。
行こう!


20120503-6.jpg


やっぱり最後はノエルになってします。
こればっかりはねぇ~...............ノエルごめんね。
でも雨脚はカイの時よりもかなり弱くなり、徐々に霧雨に。

よかったじゃんノエル!
垂直跳びしながら、待った甲斐があったね。


20120503-7.jpg


一番に行ったナインは既にマッタリ状態。
でもみんなが通る目の前で寝ているので、
その度に起こされてます。


こうなってみると、今日よりましだった昨日の雨の中、
姫を散歩に連れて行かなかったことが悔やまれます。
きっと家の人は誰も連れて行ってあげてないだろうから。

でも明日は雨も止むようなので、
泥んこの森を散歩しようと思います。



それから..................タイトルにもしたバローの傷。
若かりし頃、6ヶ月ほどのバローです。


20120502-15.jpg


事故に遭い、素通りされたバロー。
きっと素通りした人たちは、
帰った後に得意げな顔で可哀想な犬がいてさ....と話した事だろう。
哀れむ表情の能面を付け、隠れた顔は得意げに。

道路の真ん中で横たわるバローに、
素通りできなかった一人の女性によってバローは救われた。

脊髄損傷の下半身麻痺。

安楽死を薦める獣医師の能面をかぶった輩にも負けず、
その命をなす君ママへと託した。

この画像は、なす君ママの元へ来て2週間ほどのバローです。


20120502-16.jpg


人形みたいな無表情だったというバロー。
一切の表情は無かったそうです。

頬には、事故なのか人為的に切られたのか判別できない傷もあった。
その傷跡は今も残り、
バローはしょっちゅう、日に何度も気にして触っている。


20120502-17.jpg


なす君ママや周りにいる友人、そしてスタッフの方たちの愛情で、
少しずつ歩き出すようになったバロー。
もう自分の足で歩く事はできなくても、少しずつ身を起こしたバロー。
それでもまだ、体は痩せ、アバラが浮いています。


20120502-18.jpg


今回、震災のせいで何もかもごちゃごちゃになった中から、
必死になってバローの画像を探してくれました。

最後の画像は、なす君ママはじめ周りに居た人たちの、
努力ではない、愛情の積み重ねが、
再びバローの.....なす君の表情を取り戻した画像です。

能面は外からも、そして内側からも壊された。
今のバローが、ここに居ます。

でも震災が、再びバローを襲いました。
その後の数ヶ月間、余震が、バローを弱らせました。
そして絆を、引き裂きました。


でもバローが再び能面を被ることは、
一度も無かったんじゃないかなと思います。
そしてそれは、なす君ママや周りの人たちにとっても。

遠く離れた場所に居る僕には、
何か言う権利や資格もありませんが、
バローはなす君ママさんたちの深い愛情で救われ、
なす君ママさんたちもまた、
バローの深い愛に救われたんじゃないかなと感じました。

育まれ築かれたその道は、今もバローの前にある。
震度7の地震にも、津波にも耐えたその道を、
バローは信じて歩いていると思います。

なす君ママさん、ありがとう。
ご友人の方々、ありがとう。
スタッフの方々、ありがとう。






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仕事柄在宅なので、
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